愛山の講談私小説シリーズ アル中の種(7)

 

アル中の種

 

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「その頃の性癖はいまでも残っていてね。たとえばちょっと風の強い日に洗
濯物をベランダに干すだろう。そうすると自分でこのくらいの風なら飛ばさ
れないだろうと判断したにもかかわらず、いざ干してみると、今度は洗濯物
が風に飛ばされないだろうかと心配になってきて、窓越しにずっと洗濯物を
見てる。何も仕事が手につかない……。そういう決断力の鈍さ……ね」
「でもお母さん、可愛そうですね」
「うん。可愛そうだね。涙がでるほど可愛そうだ。本当に悪いことをしたと
思ってるよ、親父にもね。
 だけどあの頃は支離滅裂な精神状態で、未熟といったほうがいいかもしれ
ないけど、とにかく誰かに寄生しないと先へ進めなかった。今でも気の強い
女が好きだというのは、リードしてもらいたいからなんだ。庇護してもらい
たいからなんだ」
「でも今の若い男の子の中には女の子のペットになりたいっていう願望が強
くあるんですって。何でもいうことをきくから、女の子に可愛がってもらい
たいっていう……」
「よく電車の中で肩に凭れて眠っているのが男で、その髪の毛を弄んでいる
のが女っていうカップルがいるけど、あれのことかい」
「まあそうだと思います。あれって危険ですよねえ」
「おれは男女の中性化だと思ってたんだけど……。でもたしかに危険だね。
子供のままで生きることを楽だと感じてるんだから……。まるで昔のおれを
見てるようだよ。だけどそういう男をそれでよしとする女のほうも危険だな。
子離れできない母親と同じ心理だもの。そんなのが結婚してごらんよ。どん
なガキが生まれるかしれたもんじゃない。未熟者ばかりが集まって酒を飲ん
で、これは一億総アル中となる日も近いね。楽しみだ」
「どうしてですか?」
「アル中体験を語れる講釈師として、おれの仕事が増えるからさ」
「でもみんながアル中なんですから、そのときはアル中でない人のほうが蔑
視されてしまいますよ」
「……」
 …………
 …………

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