愛山の講談私小説シリーズ 母の最期(12)

 

母の最期

 

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 日曜日の午前中に山川と通夜、告別式の打ち合わせをすませた。打ち合わせ
は儀式の飾り付けにいくら金をかけるかをきめるもので、話は細部をきわめ、
長時間におよんだ。世間に疎く、一人では電車にも乗れず、旅行もできなかっ
た母親を三途の川まで淋しがらせない程度のものでいい……。わたしはそのこ
とだけを考えていた。
 父親を同席させた。が、すでに耳が遠くなっていて、わたしと山川の会話が
かなりの早口に聞こえるようだ。しかも内容を理解していない事柄に同意を求
められると反射神経的にうなずいてしまう。仕切るのはわたしの役だった。
「S新聞に死亡広告をお出しいたしましょうか」
「ああ。そうしてください」
「だめだよ父さん、新聞に載せるということは金がかかるんだ。タダじゃない
んだよ」
「……じゃ、やめるだよ」
 しかし「この土地では火葬にした後に告別式となります」という山川の説明
を聞いた父親は「それはおかしいだよ。骨にする前にお別れをするのが当たり
前だだよ」と強い口調で言い、火葬と告別式の順を変えるように主張した。
「山川さん、どうしてそんなことになっているんですか?」
 わたしが尋ねた。東京とは感覚が違いすぎる。
「なんでも戦争中に、こちらの連隊の戦死者の葬儀をお出しする場合に、もう
仏さまはお骨になっておられましたから……。その名残なのだそうです」
「それじゃまだ新しい話じゃありませんか。そんなものは伝統でもしきたりで
もありません。親父のいうとおりにしてください」
「承知いたしました」
 ー会葬者の数読みに困った。香典返しや食事の手配など、どうしても数を
出さなければならない。父親とは違い母親のほうが社交的だが、それでもたか
が知れている。用意した品や弁当が残りすぎるのはあまりにも切ない。しかし
余裕をみる必要はあるだろう。列席できなくても後日弔問に家を訪ねる者もい
るはずだ。わたしは七十人くらいだろうとは思いながらも、香典返しは返品可
能を条件に百人という数字を出した。母親の死が急に現実味を帯びてきた。
「支払いは分割にならないの?」
 わたしは山川に問いかけた。切実な願いだった。
「それはちょっと……」
「大丈夫だよ。そのくらいは」
 父親が笑った。

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