愛山の講談私小説シリーズ 母の最期(5)

 

母の最期

 

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 その夜のニュースで、明日の午後早く故郷から関東地方にかけて台風の強い
影響が出ることを知った。電車が心配だ。不通になったら独演会に顔を出せな
くなってしまう。わたしは昼に母親を見舞い、その足で帰京する予定でいたが、
そうもいかなくなった。
 わたしは、二人によろしく、と、二階で生活している弟夫婦への伝言を父親
に頼み、早めに故郷を発った。玄関に弟からもらえる約束になっていたグリー
ンのスニーカーが置かれてあった。
 激しい風で、東京に着いた頃から本降りになった。

 ……独演会の客は五人だった。
 母親の食事の介助をあきらめて駆け付けたというのに、これでは前座の手伝
い賃にもならない。また赤字を背負ってしまった。この不入りを台風の責任に
転嫁できたらどんなに楽なことかー。ため息が出た。父親のため息は病気の
後遺症だが、わたしのため息は人生の結果だった。高座に上がると、
『何もしてやれないうちに、こんなになっちゃって、悪いね』
 母親の言葉が脳裏をよぎった。
 ……わたしは虫けらのような男になった。

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